現代文学

黒潮流れる太平洋に向かって、険しい山々が近く迫っている南国土佐の風土は明るく美しいが、反面、山と海の対比はきびしく、激烈である。
高知県出身の昭和・平成の作家も、ふるさと土佐に材をとる人が多い。しかも明快に両極に立ち、上林暁のごとく調和的に自己を語る作家もあれば、田中英光のように破滅的に自己を描く作家もいる。
女性作家たちも南国的情熱でエネルギッシュな活躍をみせ、大原富枝、宮尾登美子あるいは倉橋由美子など、極端に対比的な様式の作品を生み、写実的、抽象的に女性のすがたを追求している。

eikou.jpg (3664 バイト)田中英光(1913〜1949)

両親が高知県出身。オリンピック大会に出場した体験をもとにして書いた代表作『オリムポスの果実』で文壇にデビュー。
太宰治に心酔し師事する。その後、歴史や党生活、私生活など自らの周辺に取材した作品を精力的に発表する。
晩年、無頼派作家と称され、私生活の破綻から酒に溺れ、師太宰の墓前で衝撃的な生涯を終えるが、彼が持ち続けたナイーブな感性と社会正義感が現実の敗北感と混融した異端の文学を作り上げた。
平成11年度秋季企画展「田中英光没後50年展」開催(10/9〜11/28)

 

takakura.jpg (3468 バイト)タカクラテル(1891〜1986)

本名高倉輝豊を高倉輝と改名。筆名高倉テルからタカクラ・テルに。京大嘱託時代より戯曲を手がけ作家になることを決意し大学を辞職。
土田杏村の提唱した民衆のための「自由大学」に共鳴、長野県上田市と深い関わりを持つに至る。 
『百姓の唄』『大原幽学』『狼』など次々と名作を世に送る。殊に『箱根用水』(当初『ハコネ用水』)は、長年の調査研究を経たうえで、文学の可能性に迫った国民文学の代表傑作といわれる。
 

kannbayasi.jpg (3105 バイト)上林暁(1902〜1980)

本名徳広巌城(いわき)。筆名は熊本五高時代に下宿した熊本市上林町に由来。「改造」の記者を経て昭和九年文筆一本の生活に。
妻繁子の発病から死に至る間の日々を直視し描いた「聖ヨハネ病院にて」ほかの病妻もので文壇に地歩を築く。
阿佐ヶ谷界隈で井伏鱒二・木山捷平らとも交友。再度の脳出血後、妹睦子の献身的な手助けを受けながら、左手で、あるいは、口述筆記で文芸への執念を貫き、私小説作家として不朽の金字塔を打ち立てた。
 

tamiya.jpg (2780 バイト)田宮虎彦(1911〜1988)

父は高知市、母は香美郡香宗村(現・野市町)の出身で、高知へ帰ることも多く、土佐を題材とした作品も多い。
戦時下の重圧にも耐えた作家修業は、戦後間もなく「霧の中」で最初の歴史小説として評価され、『絵本』では毎日出版文化賞を受賞。
以後、誠実な時代・社会認識の視線、庶民的なヒューマニズムは、一方で独自の父子・夫婦関係を創作化した。
暗い体験を越えた一途な人生願望を清冽な叙情で諸名作に残した。


 
小山いと子(1901〜1989)
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父親と夫の自我的性格の影響もあり、男女平等、目覚める女性の姿を文学の中に追い求めた。
『執行猶予』で直木賞を受賞する。また、有名な「ダム・サイト論争」では、男性評論家を相手に一歩も引かず、土佐的な芯の強さを発揮した。
作品は土木工事、社会問題、自伝の三つの系列に分けられる。
綿密な調査に基づくスケールの大きい作品が多く、清純なヒューマニズムと社会性を持っているのが特徴である。
 

oohara.jpg (3429 バイト)大原富枝(1912〜2000)

若き日の療養生活の中で小説を書き始める。
戦時下の農山村に生きる女性たちの、ひたむきな愛の姿を描いた「祝出征」で芥川賞候補となる。
以来、歴史に取材した『婉という女』『正妻』等も含め一貫して、女が生きるとはどういうことか、時代や社会の問題にまで迫って描写。
その後も『建礼門院右京大夫』や『アブラハムの幕舎』や『地上を旅する者』など次々と力作を発表。
女性の豊かな情感と社会的視点は、高く評価されている。2000年1月27日逝去。
 

yasuoka.jpg (3301 バイト)安岡章太郎(1920〜)

父の転勤に伴い幼少期を各地で過ごす。
学校・兵隊での体験、そして戦後の旧軍人家庭の苦難、脊椎カリエス罹病といった負の部分を誇張もせず、
明瞭に認識、客観化し独自の私小説世界を構築。観念性の強い重厚な戦後の文壇に清新な衝撃を与えた。
昭和二十八年、吉行淳之介・遠藤周作らに先立ち「第三の新人」のトップをきって芥川賞を受賞。 
『志賀直哉私論』『果てもない道中記』など優れた評論、エッセイも多い。
 

kiyooka.jpg (4433 バイト)清岡卓行(1922〜2006)

詩人、小説家、エッセイスト。かつて日本の租借地であった大連に生まれ、その地を忘れ得ぬ青春の地をとして持つ。
高知の田野・奈半利を父母の生地としながらも、歴史のはざまで得た異土とのつながりが作品世界に清澄な奥行きと味わいを醸し出している。
詩・小説・エッセイと表現形式を異にしても、そこにはこの作家ならではの鋭い感性と深い思索がある。
音楽・映画にも造詣が深く大の野球ファンでもある。2006年6月3日逝去。

平成19年度秋季企画展「清岡卓行 追悼展」開催(11/2〜12/19)
   

miyaotomiko.jpg (3665 バイト)宮尾登美子(1926〜)

昭和三十七年に「連」で女流新人賞を受賞して以来、太宰治賞、女流文学賞、直木賞など多くの文学賞を受賞。
日本的な風土や因習の中で生きる女性を、独特の流麗な文体で描きつづけてきた。
 「自伝もの」から出発し「芸道もの」、「歴史もの」と領域を広げ、平成八年には、長年温めてきた『クレオパトラ』の新聞小説を完結させ、新境地を開いた。舞台上演、映画化の作品も多く、小説とともに人々に深い感動を与えている。
平成12年度初夏企画展「宮尾登美子展『一絃の琴』・・そして『櫂』『春燈』『朱夏』 映像化された作品群」開催(6/6〜7/2)
 

 

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